大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

釧路地方裁判所帯広支部 昭和44年(ワ)59号 判決

原告

山本八郎太

被告

西島徳永

ほか一名

主文

一、被告両名は原告に対し連帯して金二三万八、一四一円二〇銭およびこれに対する昭和四四年三月二七日から完済まで年五分の割合によう金員を支払え。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用はこれを一〇分し、その九を原告の負担とし、その余を被告両名の連帯負担とする。

四、この判決中原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一、当事者双方の求める裁判

一、(原告)被告両名は原告に対し、連帯して、金三一六万六、三五三円およびこれに対する昭和四四年三月二七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告両名の連帯負担とする、との判決並びに仮執行の宣言。

二、(被告両名)原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決。

第二、原告の請求原因

一、事故の発生

昭和四二年八月一四日午後六時三〇分頃、原告および訴外小林義光、同小林和子、同宮崎麻市が同乗し、被告西島徳行(以下被告徳行という。)の運転する普通乗用自動車(以下本件自動車という。)が、北海道河東郡鹿追町西二八線三〇号付近道路から東側断崖に転落し、原告など右同乗者四名と被告徳行とがそれぞれ負傷する事故(以下本件事故という。)が発生した。

二、責任原因

(一)  被告西島徳永(以下被告徳永という。)は、本件自動車の所有者であり、自動車損害賠償保障法第三条により損害賠償の責任がある。

(二)  被告徳行は、本件自動車の運転者であり、道路交通法規に違反して飲酒酩酊の状態で運転した結果ハンドル操作を誤つた過失があり、本件事故を発生させたものであるから民法第七〇九条により損害賠償の責任がある。

三、原告の損害

(一)  原告は本件事故により、肋骨六本を骨折したほか、腰部挫傷の傷害を負い、そのため、昭和四二年八月一四日から同月二七日まで二週間入院し、同年同月二八日から同年一一月頃まで、さらに同四三年六月二八日から同年一二月二八日まで、通院加療を要することとなつた。

(二)  本件事故により原告が蒙つた損害は次のとおりである。

1 治療費 金四万七、三五三円

右腰部挫傷後遺症治療のため長谷川整形外科医院に昭和四三年六月二八日から同年一二月二八日までの間計七四回通院し治療を受けた治療代は金四万七、三五三円である。

2 収入の減少 計金一一一万九、〇〇〇円

(イ) 原告は建築業に従事し、昭和四二年当時一月平均金一三万円の収入を得ていたところ本件事故により同年八月一五日から同年一二月三一日まで四・五月間就労できず、収入をえられない状態になつた。このことによる収入の減少分は金五八万五、〇〇〇円である。

(ロ) 原告は昭和四三年一月一日ないし三月三一日の冬期間、前年度の収入額を基礎とする失業保険金を受けることができた筈であるのに、本件事故により保険受給資格である離職前六月間以上の掛金を支払うことができなくなり、そのため失業保険金を受給できなかつた。このことによる収入の減少分は一日一、二〇〇円で計金一〇万八、〇〇〇円であるが、その内金一〇万円を請求する。

(ハ) 原告は昭和四三年四月から一二月までの間本件事故のため一月平均金七万円の収入を得るにとどまることとなり、前年に比し計算上一月平均金六万円、合計金五四万円の収入の減少をみる結果となつた。右減少額は経済事情の変動に照らし、一割加算して金五九万四、〇〇〇円とするのが相当であるが、受領済の自動車損害賠償保険金一六万円をこれに充当するので、その残金は金四三万四、〇〇〇円である。

3 慰藉料 金二〇〇万円

本件事故により原告は前記(一)の傷害を負つた。しかも原告の入院を看護したため妻は心臓を悪くし、自ら入院を要する状態となつたし、原告の幼児は両親から放置され他にあづけられたため精神症にかかつた。このようなことによる精神的苦痛は金銭に見積ると金二〇〇万円が相当である。

四、結論

よつて、原告は被告両名に対し連帯して、以上三(二)1、2、3の合計金三一六万六、三五三円およびこれに対する弁済期経過後である昭和四四年三月二七日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三、被告両名の請求原因に対する答弁

一、原告の請求原因第一項の各事実は認める。

二、(一) 請求原因第二項(一)のうち、被告徳永が本件自動車の所有者であることは認める。

(二) 請求原因第二項(二)の被告徳行に過失があつた点は認める。

三、請求原因第三項の各事実はいずれも不知。なお、原告は本件事故前、過失を含め三度交通事故に遭遇しており、原告主張の腰部挫傷後遺症が存するとしても本件事故との因果関係は否定されるべきであるし、少くとも本件事故のみによるものとはいえない。

第四、被告らの抗弁

本件事故をひきおこした被告徳行の飲酒のうえの運転とこれに至る経過としては、次の事情がある。すなわち、原告、被告徳行らは然別湖に遊びに行くこととなり、帰途は飲酒するおそれのない訴外小林和子が運転する予定でいたし、現実にも、帰路当初は右訴外小林和子が運転していたのであるが、同女が運転をあやまり、他の自動車と軽く接触し、側溝にはまる事故を起してしまい、以後の運転に不安を生じたため、原告を含め同乗者全員が協議、賛同して、被告徳行が酩酊しているにも拘らず、やむをえないものとして同被告に運転させることとしたのであり、しかも原告は自らも運転免許証を有し、被告徳行の側にいたものである。従つて、

(一)  原告は自己の利益のために本件自動車を運行に供したもので、しかもその運行を支配し得たものとして、自ら運行供用者か、それと同一視すべき地位にあつたから、原告は本件事故につき請求権がない。又、本件自動車は被告徳永の利益のために運行したものでなく、原告ら同乗者全員のため運行に供したものである。

(二)  本件ら事故の発生については原告にも過失があり、損害の算定にあつては右事情が充分考慮されるべきである。

第五、原告の抗弁に対する答弁

被告主張の抗弁事実のうち、原告が被告徳行の飲酒運転に賛同したとの点は否認する。原告は早くより酩酊していたため、訴外小林和子の接触事故以後の協議には関与していない。帰途の運転予定者が訴外小林和子であつたことは認める。(一)、(二)の主張については争う。

第六、証拠関係〔略〕

理由

一、原告主張の請求原因第一項の事実(本件事故の発生)および同第二項の事実のうら、被告徳永が本件自動車の所有者であること、被告徳行の運転に過失があり、それが本件事故発生の原因であることについては被告らが認めていて、争わないところである。

二、そこでまず、被告らの抗弁(一)につき検討してみると、〔証拠略〕によれば、次の事実を認めることができる。すなわち、(一)被告徳永は同徳行の父であり、被告徳行は父の農業を手伝うかたわら本件自動車を使用して訴外小林義光経営の小林工務店の仕事などをしていたこと、(二)被告徳行、原告、訴外小林義光、同小林和子、同宮崎麻市の五名は、被告徳行と訴外小林和子とがいとこであり、同女と訴外小林義光とが夫妻であり、被告徳行は右(一)のように訴外小林義光の店で働いていたことがあり、原告も大工として同訴外人の仕事をしたことがあることなどのため、互いに親戚、友人、知人等の関係にあること、(三)原告、被告徳行らは、被告徳行らの発案で行楽のため然別湖に行くこととなり、帰路本件事故に遭遇したものであるが、五名相談のうえ帰途は飲酒酩酊するおそれのない訴外小林和子が運転する予定であつたし、現実にも当初同女が運転したのであるが、山道の運転に不なれで技術未熟のため、他の自動車と軽く接触し、自車を側溝におちこませる事故を起してしまつたため、以後の運転に不安を感じ、運転の続行を拒んだところから、やむをえず、被告徳行が自ら運転することを決意したが、同乗者中にこれに反対する者はなく、自ら運転免許証を有していた原告自身も、酩酊のため漫然被告徳行の行為を黙認し、被告徳行の運転席の後部に同乗したこと、以上の事実が認められ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。被告徳永は、右認定の事実関係の下では、原告に損害賠償の請求権がないし、原告を含めた同乗者全員の利益のために運行されたものとして、被告徳永に自動車損害賠償保険法上の責任はない旨主張しているが、右認定の被告徳永と同徳行との関係、原告と被告徳行との関係、本件自動車の運行に至る具体的事情を考慮すれば、原告が運行供用者もしくはこれと同一視されるべき地位にあつたものとして事故による損害賠償請求権を失うものとまではいえないし、被告徳永の責任が排斥される関係にあつたものともいえないと解するのが相当であり(抗弁(二)とは別個に事故による慰藉料減額の事情となるにすぎない。)、結局、被告徳永は、自動車損害賠償保険法第三条による責任を、被告徳行は民法第七〇九条による責任を免れえないものというべきである。

三、そこで、すすんで、原告請求原因第三項の各事実、すなわち、本件事故により原告のこうむつた損害につき検討してみる。

(一)  〔証拠略〕を総合すると、原告は本件事故で肋骨六本を折り、そのため昭和四二年八月一四日から同月二七日まで二週間入院し、同年同月二八日から同年九月四日まで通院加療したうえ、事故による右腰部挫傷後遺症のため、同年同月五日頃から同年一〇月末まで、および同四三年六月二八日頃から同年一二月二八日まで通院加療したことを認めることができ、〔証拠略〕は右認定を覆すに足りず、他に右認定を左右する証拠はない。

(二)  1 〔証拠略〕によれば、原告が右(一)の後遺症のため、通院加療した長谷川整形外科医院に対し、治療費として金四万七、三五三円を支払つたことが認められる。

2 (イ) 〔証拠略〕によれば、原告は昭和四二年八月当時において一月平均金八万円の収入をえていたものと認められ、右認定を左右するに足る証拠はなく、又、〔証拠略〕によれば、原告は本件事故のため昭和四二年八月一五日から同年一二月末日まで、大工としての仕事ができず、事故前受注し、使用人らに仕事してもらつた分を除き、特技の仕事がなく、自らの大工としての収入もなかつたことが認められ、〔証拠略〕は右認定を覆すものではなく、他に右認定を左右するに足る証拠はない。結局、原告は、本件事故のため、一月平均金八万円で四・五月分、計金三六万円の収入を失つたこととなる。

(ロ) 〔証拠略〕によれば、右(イ)のように、原告は本件事故による就労不能、収入の喪失のため、昭和四三年一月ないし三月の失業保険受給資格である離職前六月間の掛金を支払うことができなかつたこと、昭和四二年一月ないし三月において原告が支給された失業保険金は一日当り金一、一五〇円であり、同四三年一月ないし三月においても同額以上の支給がなされる者であつたこと、がそれぞれ認められ、右認定を左右するに足る証拠は存しないから、結局、本件事故のため原告が受けることのできなくなつた失業保険金は金一〇万三五〇円以上ということになる。

(ハ) 右(イ)前段の認定事実、すなわち、昭和四二年八月当時原告が一月平均金八万円の収入をえていたことと、〔証拠略〕によれば、本件事故がなかつたと仮定した場合、昭和四三年四月ないし一二月において、原告は、一月平均金九万二、〇〇〇円(前年比一五パーセント増)の収入をえることができたものと認められ、〔証拠略〕によれば本件事故後前記(一)の後遺症を有したため、原告の昭和四三年四月ないし一二月における一月平均収入は金七万円であつたことが認められ、他にこれら認定を左右する証拠はない。そうであれば、原告は本件事故のため、昭和四三年四月ないし一二月において一月平均金二万二、〇〇〇円の収入の減少をみたこととなり、その損害は合計金一九万八、〇〇〇円ということとなるから、この損害に原告が受領済の自動車損害賠償保険金一六万円を充当した差額は、金三万八、〇〇〇円である。

3 前記二および三(一)の認定事実を前提とする本件事故による原告の慰藉料は入院二週間につき金一万円通院八月分につき金四万円、合計金五万円が相当である(なお、原告が主張するその余の事情は、右慰藉料を増額すべき特別の事情とはいえない。)。

(三)  よつて、結局、原告の本件事故による損害賠償請求については、一応、右(二)の1の金四万七、三五三円、2(イ)の金三六万円、2(ロ)の内金一〇万円、2(ハ)の金三万八、〇〇〇円、3の金五万円の合計である金五九万五、三五三円の限度で理由があることとなる。

四、最後に原告の過失を考慮すべきものとする被告らの抗弁(二)につき検討してみると、被告徳行が飲酒酩酊のうえ運転するに至つた事情として、前記二(三)の各事実が認められ、原告は、酩酊していたとはいえ被告徳行の運転を阻止しなかつた点で過失のあることが明らかである(但し、前記二(三)で説明したように、原告が被告徳行の運転を積極的に推進したとの点までは認めがたい。)。そしてこの事情の下では原告の過失の本件事故による損害に対する寄与率は六〇パーセントに相当するものと認められる。

五、以上により、原告の本訴請求は、前第三項の各損害額の合計金五九万五、三五三円につき、第四項の原告の過失を考慮して減殺した残金二三万八、一四一円二〇銭およびこれに対する弁済期経過後である昭和四四年三月二七日から完済まで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条本文、第九三条第一項但書、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 堀内信明)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例